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箙(えびら)

【分類】二番目物 (修羅能)

【作者】世阿弥

【主人公】前シテ:里人、後シテ:梶原源太の霊

【あらすじ】(独吟〔クセ〕の部分は斜体です。仕舞〔キリ〕の部分は下線部です。)

九州から都見物を志す一人の旅の僧が、早春の頃、須磨の浦の生田川のほとりに着きます。ちょうどそこに、色あざやかに咲いている梅の木があるので、来合わせた男に問うと、箙の梅だと答えるので、どうしてそういう名がついたのかと尋ねます。その男は源平の合戦の時、源氏方の若武者梶原源太景季が折から咲き誇っていた梅の花を手折って、笠印の代わりに箙にさし、めざましい活躍をしたので、箙の梅の名が残ったとその由来を語ります。さらに一ノ谷の合戦の様子を詳しく物語るので、僧が不審がると、男は自分は景季の亡霊だと名乗って、たそがれ時の梅の木陰に消え失せます。

<中入>

土地の者から重ねて箙の梅の話を聞いた僧は、奇特の思いに立ち去りかね、木陰で仮寝をしていると、夢に武者姿の影季が現れ、修羅道での苦患を見せ、また往昔の合戦でのめざましい戦ぶりを見せたかと思うと、夜明けと共に回向を頼んで消え失せます。

【詞章】(独吟〔クセ〕の部分と仕舞〔キリ〕の部分の抜粋です。)

〔クセ〕

時しも二月.上旬の空のことなれば。須磨の若木の桜もまだ咲きかぬるうす雪の.さえかえる波ここもとに。生田のおのずから盛りを得て。勝つ色見する梅が枝。一花ひらけては天下の春よと。いくさの門出を.祝う心の花も.咲きかけぬ。さるほどに味方の勢。六万余騎を二手にわけて。教頼義経の。大手からめ手の。海山かけて須磨の浦。四方を囲みて押し寄する。魚鱗鶴翼もかくばかり。うしろの山松に群れいるは。のこりの雪の白妙にねぐらをたたむ.真鶴の。翼をつらぬるその気色。雲にたぐえておびたたし。浦には海人さまさまの。漁父の舟影かず見えて。いさり焚火もかげろうや。嵐も波も須磨の浦.野にも山にも漕ぎ寄する。兵船はさながら。天の鳥舟もかくやらん。

〔キリ〕

山も震動。海も鳴り。雷火も乱れ。悪風の。紅焔の旗をなびかし。紅焔の旗をなびかして。閻浮に帰る生田河の。波を立て水をかえし。山里海川も。みな修羅道の巷となりぬ。こはいかにあさましや。しばらく心を静めて見れば。所は生田なりけり。時も昔の春の。梅の花盛りなり。ひと枝手折りて箙にさせば。もとよりみやびたる若武者に。あいおう若木の花かずら。かくれば箙の花も源太も.我先駆けん先駆けんとの。心の花も梅も。散りかかって面白や。敵のつわものこれを見て。あっぱれ敵よ逃すなとて。八騎が中にとりこめらるれば。兜も打ち落とされて。大童の姿となつて。郎等三騎に後ろをあわせ。向う者をば。拝み打ち。まためぐりあえば。車斬り。蜘蛛手かく縄十文字。鶴翼飛行の秘術を尽くすと見えつるうちに夢覚めて。しらしらと夜も明くれば。これまでなりや旅人よ。暇申して花は根に。鳥は古巣に帰る夢の。鳥は古巣に帰るなり。よくよく弔いてたびたまえ。

 

 

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