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二人静(ふたりしずか)

【分類】三番目物(鬘物) *序ノ舞

【作者】不明

【主人公】前シテ:里女(面・小面)、後シテ:静の霊(面・小面)

【あらすじ】(舞囃子の部分…下線部)

吉野山勝手明神の神職は、正月七日の神事に供える若菜を摘むために、女を菜摘川へつかわします。菜摘女が、雪の消え残る野辺で若菜を摘んでいると、どこからともなく一人の女が現れて話しかけてきます。そして、吉野へ帰ったら神職の人などに頼んで、一日写経をして自分を供養してくれるよう伝言してほしいと言います。菜摘女は驚いて名を尋ねますが、女はそれには答えず、この旨を疑う人があれば、そのとき自分があなたに憑いて名を明かしましょうと言い残して消え失せます。

<中入>

急いで立ち帰った菜摘女は、この事を神職に告げ、自分でも不思議に思っているとふと疑いの言葉をもらすと、たちまち先刻の霊が乗り移って、気色が変わります。神職が霊に名を問うと、判官殿に仕えた者と述べ、静御前であることをほのめかします。静の霊であることを知った神職は、舞を所望し、跡を弔うことを約束します。女は宝庫に収められた昔の舞衣装を取り出させ、それをつけて舞い始めると、静の亡霊も同じ衣装で現れます。そして女の影に添うごとく、義経の吉野落ちの辛苦や、頼朝に召されて舞を所望され、心ならずも舞った時の有様を物語りつつ、二人一体の如く舞い、後の回向を頼んで、静の霊は去っていきます。

【詞章】(舞囃子の部分の抜粋)

さても判官は兇徒に准ぜられ。すでに討手向うと聞こえしかば小船にとり乗り。渡辺神崎より.おし渡らんとせしに。海路心にまかせず難風吹いて。もとの地に着きしこと天命かと思えば。科なかりしも。科ありけるかと.身を怨むるばかりなり。さるほどに。次第次第に道せまき.おん身となりてこの山に。分け入りたもう頃は春。所は三吉野の花に宿かる下伏も。のどかならざる夜嵐に.寝もせぬ夢と花も散る。まことに一栄一落。まのあたりなる浮世とて.またこの山を落ちてゆく。むかし清見原の天皇。大友の皇子に襲われて。かの山に踏み迷い雪の木陰を。頼みたまいける.桜木の宮。神の宮滝.西河の滝。われこそ落ちゆけ落ちても波は返るなり。さるにても三吉野の。頼む木陰の花の雪。雨もたまらぬ奥山の.音騒がしき春の夜の。月はおぼろにてなお足引きの山深み.分け迷いゆく有様は。もろこしの。祚国は花に身を捨て。遊子残月に行きしも.今身の上に白雪の。花を踏んでは。同じく惜しむ少年の。春の夜も.静かならで。騒がしき三吉野の。山風に散る花までも。追手の声やらんと。跡をのみ三吉野の.奥深く急ぐ.山路かな。それのみならず憂かりしは。頼朝に召しいだされ。静は舞の上手なり。とくとくとありしかば。心もとけぬ舞の袖。返す返すも.怨めしく.むかし恋しき.時の和歌。しずやしず。

<序ノ舞>

賎やしず。賎のおだまき。繰りかえし。昔を今に。なすよしもがな。思い返せばいにしえも。思い返せばいにしえも。恋しくもなき憂き事の。今も怨みの衣川。身こそは沈め.名をば沈めぬ。武士の。物ごとに浮世の習いなればと.思いかえせば山桜。雪に吹きなす花の松風.静が跡をといたまえ.静が跡を.といたまえ。

 

 

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