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熊坂くまさか

【分類】五番目物 (切能)

【作者】不明

【主人公】前シテ:僧、後シテ:熊坂長範の霊

【あらすじ】(仕舞の部分は下線部です。)

都の僧が東国への旅を志し、都を出て美濃国(岐阜県)赤坂まで来たとき、一人の僧に呼びとめられます。そして、今日が命日の者のために回向をしてくれと、草原の中の古墳に伴われ、その僧の庵室に案内されます。みると、その庵には仏の絵像も木像もなく、大長刀や武具が並べられているので、不審に思って尋ねます。すると、この辺りは山賊夜盗が出るので、通行人の危難を救うための用意で、この土地では頼りにされていると答えます。そして、「お休みあれ」と何処ともなく去って行きます。

<中入>

旅僧は、草庵が消えて、松陰の草むらに座っているのに気がつきます。ちょうど来合わせた土地の者から、この地で討たれた熊坂長範の話を聞き、さてはさっきの僧は熊坂の幽霊であったかと思い、読経し回向を始めます。すると、長刀を担いだ熊坂の霊が現れます。そして、ここで奥州へ下る金売り吉次一行を襲ったが、逆に牛若丸によって討たれた次第を物語り、松陰に隠れるように消え失せます。

【詞章】(仕舞の部分の抜粋です。)

機嫌はよきぞ。はや。入れと。いうこそほども.ひさしけれ。いうこそほどもひさしけれ。皆われ先にと松明を。投げ込み投げ込み乱れ入る。いきおいはようやく神も。面を向くべきようぞなき。しかれども牛若子。少しも恐るるけしきなく。小太刀を抜いて渡り合い。獅子ふんじん虎らんにう。飛鳥の翔りの手を砕き。攻め戦えばこらえず。表に進む十三人。同じ枕に斬り伏せられ。そのほか手負い太刀を捨て.具足を奪われ這うほう逃げて。命ばかりをのがるもあり。熊坂いうよう。この者どもを手の下に。討つはいかさま鬼神か.人間にてはよもあらじ。盗みも命のありてこそ。あら枝葉や引かんとて。長刀杖に突き。うしろめたくも引きけるが。熊坂思うよう。熊坂思うよう。ものものしその冠者が。斬るというともさぞあるらん。熊坂秘術を奮うならば.いかなる天魔鬼神なりとも。宙にんで微塵になし。討たれたる者どもの。いで孝養に報ぜんとて。道より取って返し。例の長刀引き側め。折り妻戸を小楯にとって。かの小男を狙いけり。牛若子はご覧じて。太刀抜き側め物間を。少し隔てて待ち給う。熊坂も長刀構え。たがいにかかるを待ちけるが。苛って熊坂左足を踏み.鉄壁も通れとつ長刀を。はっしと打って。弓手へ越せば。追っかけ透かさず込む長刀に。ひらりと乗れば刃向きになし。退って引けば馬手へ越すを。おっ取り直してちょうど斬れば。宙にて結ぶを解く手に。却って払えば飛び上がって。そのまま見えず形も失せて。ここやかしこと尋ぬるところに.思いも寄らぬ後より。具足の隙間をちょうど斬れば。こはいかにあの冠者に。斬らるることの腹立ちさよと。いえども天命の。運の極めぞ.無念なる。

 

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