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黒塚くろつか

【分類】五番目物(切能)

【作者】不明

【主人公】前シテ:里女、後シテ:鬼女

【あらすじ】(舞囃子の部分は下線部です。仕舞の部分は斜体の部分です。)

紀州(和歌山県)熊野の山伏、阿闍梨祐慶の一行は、諸国行脚の途中、奥州(福島県)安達原に着きます。日が暮れたので、火の光をたよりに野中に一軒の庵を見つけます。一夜の宿を乞うと主の女は一度は断りますが、是非にといわれ招き入れます。山伏が見馴れぬ枠かせ輪に興味を持つので、女は糸尽くしの唄を謡いながらそれで糸を繰る様を見せます。やがて女は夜も更けたので、もてなしの焚火をするために、山に木を取りにゆくから、帰るまで閨の内を見てなといい置いて出かけます。<中入>能力は余りくどく閨の内を見てはならぬといったので、かえって不審に思い、祐慶に許可を求めるが許されません。能力は山伏達の寝入った隙を見て、閨をのぞくと、そこには人の死骸が山と積んであるので、びっくりし、これこそ鬼の住家だと祐慶に告げます。一行は驚いて逃げ出すと、先程の女が鬼女の本性を現し、約束を破って閨の内を見たことを非難し、恨み、襲いかかって来ます。山伏達は必死に祈るので、鬼女は遂に祈り伏せられ、恨みの声を残して、夜嵐とともに消えうせます。

【詞章】(舞囃子の部分の抜粋です。仕舞の部分は下線部です。)

心も惑い、肝を消し。心も惑い肝を消し。行くべき方は知らねども、足にまかせて逃げてゆく、足にまかせて逃げてゆく。いかに旅人とまれとこそ。さるにても隠しおきたる閨の内を。あさまになされ申しつる。怨みのために来たりたり。胸をこがす焔は。咸陽宮の煙ふんぷんたり。野風山風吹き落ちて。鳴神稲妻天地に満ち。空かき曇る雨の夜に。鬼ひと口にくわんとて。歩みよる足音。ふりあぐる鉄杖の勢。あたりを払って恐ろしや。

<祈リ>

東方に降三世明王。南方に軍荼利夜叉明王。西方に大威徳明王。北方に金剛夜叉明王。中央に大日大聖不動明王。おん呼ろ呼ろ旋荼利摩登枳おん阿毘羅吽欠娑婆呵。吽多羅叱干まん。見我身者発菩提心。見我身者発菩提心。聞我名者断悪修善。聴我説者得大知恵。知我身者即身成仏。即身成仏と明王の。繋縛にかけて責めかけ責めかけ。祈り伏せにけり、さて懲りよ。今まではさしもげに。今まではさしもげに。怒りをなしつる鬼女なるが。たちまちに弱りはてて。天地に身をつづめ眼くらみ。足もとはよろよろと。ただよいめぐる安達が原の。黒塚に隠れ住みしも、あさまになりぬる浅ましや恥かしのわが姿やと。いう声はなおもの凄じく。いう声はなお。すさまじき夜嵐の音に。たちまぎれ失せにけり、音にたちまぎれ失せにけり。

 

 

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