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小塩(おしお)

【分類】五番目物 (切能)

【作者】金春禅竹

【主人公】前シテ:老人、後シテ:在原業平の霊

【あらすじ】(仕舞〔クセ〕の部分は上線部です。仕舞〔キリ〕の部分は下線部です。)  

大原山の桜が満開だと聞いた都の男が、仲間と一緒に花見に出かけます。すると見物客の中に、手折った桜の枝をかざす老人がいます。男が声をかけると、老人は、姿は鹿のように下卑ているかもしれないが、心は風雅に満ちていると言い、男たちと合流します。老人が「大原や小塩の山も今日こそは、神代のことを思ひ出づらめ」という和歌を口にしたので、男が作者名を尋ねると、在原業平が詠んだ歌であると答え、いずことなく消えてしまいます。

<中入>

先の老人は在原業平の霊に違いないと考えた男たちは、桜の木の下で経を唱え始めます。そこへいつの間にか、業平の乗った高貴な雰囲気の漂う花見車が現れます。業平は春の宵には思い出が甦り、その思いが和歌となるのだと言い、さまざまな例を挙げ、和歌の徳を称えます。そして、人の思い出は、いずれも恋心に関したものだと語り、二条の后との思い出に耽りながら舞をまいます。やがて月が白み、夜が明け始める頃、男たちが目覚めると、業平の姿は消えていました。

【詞章】 (仕舞〔クセ〕と仕舞〔キリ〕の部分の抜粋です。)

  〔クセ〕

春日野の。若紫のすり衣。しのぶの乱れ。限り知らずとも詠ぜしに。陸奥の.忍ぶもじずり誰ゆえに.乱れそめにし。われならなくにと。詠みしも紫の.色に染み香にめでしなり。または唐衣。着つつ馴れにし妻しあれば。はるばる来ぬる旅をしぞ.思う心の奥までは。いさ白雲のくだり月の。都なれや東山。これもまた東の。果てしなの人の心や。武蔵野は。今日はな焼きそ若草の。つまもこもれりわれもまた.こもる心は大原や。小塩に続く通い路の。行くえは同じ恋草の。忘れめや今も名は.昔男ぞと.人もいふ。

   〔キリ〕

昔かな。花も所も。月も春。ありし御幸を。花も忘れじ。花も忘れぬ。心や小塩の。山風ふき乱れ.散らせや散らせ。散り迷う木のもとながら。まどろめば。桜に結べる。夢か現か世人定めよ。夢か現か世人定めよ。寝てか覚めてか。春の夜の月。曙の花にや。残るらん。

 

 

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