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歌占うたうら

【分類】二、四番目物(男物狂物) *カケリ

【作者】観世十郎元雅

【主人公】シテ:渡会家次(直面)

【あらすじ】(仕舞〔クセ〕の部分は上線部です。仕舞〔キリ〕の部分は下線部です。)  

伊勢二見の神職渡会家次は、諸国一見の旅の途中、急死しましたが、三日後には蘇生します。しかし、地獄を見て来た恐怖のため、髪は真白に変じてしまいます。そして今は、和歌の文辞によって吉凶を判じる歌占を渡世として、諸国を流浪していますが、たまたま加賀国(石川県)白山の麓へやって来ます。一人の里人が、最近この地に来た男神子の歌占がよく当たるということを聞いて、親に別れて尋ね歩いている子供を連れて、見てもらいに来ます。最初里人が、短冊をひくと「北は黄に南は青く東白、西紅に染め色の山」とあります。神子は、親の病気は治り長生きすると判じます。つづいて子供が短冊をひくと「鶯のかいこ(卵)の中の時鳥、しゃ(己)が父に似てしゃが父に似ず」とあり、父の行方を尋ねると、神子はその歌の意味を説明し、これは既に逢っている占だと判じます。そして不思議のあまり、身の上を問いただすと、我が児であることがわかり、奇しき再会を喜びます。里人は別れに、地獄の曲舞を所望します。神子は、これを謡うと神がかりになるのでとためらいますが、せっかくの頼みだからと舞い始めると果たして正気がなくなりますが、やがて狂乱から覚め、親子は故郷へと帰っていきます。

 

【詞章】(仕舞〔クセ〕と仕舞〔キリ〕の部分の抜粋です。)

〔クセ〕

時移り事去って。今なんぞ。渺茫たらんや人留まりわれ行く。たれかまた常ならん。三界無安猶如火宅。天仙なおし死苦の身なり。いわんや下劣。貧賎の報においておや。などかその罪軽からん。死に苦しみを受け重ね。業に悲しみなお添うる。挫椎地獄の苦しみは。臼中にて身を斬ること。千段して。血狼藉たり。いちじっのそのうちに。万死万生たり。剣樹地獄の苦しみは。手に剣の樹をよどれば。百節零落す。足に刀山踏む時は。千肢ともに解すとかや。石割地獄の苦しみは。両塊の大石もろもろの。罪人を砕くつぎの。火盆地獄は。頭に火炎を戴けば。はくせつのこっとうより.炎炎たる火を出だす。ある時は。焦熱大焦熱の。炎にむせびある時は。紅蓮大紅蓮の。氷に閉じられ。鉄杖頭を砕き.火燥あなうらを焼く。飢えては鉄丸を呑み。渇しては。銅汁を飲むとかや。地獄の苦しみは無量なり餓鬼の。苦しみも無辺なり。畜生修羅の悲しみも。われらにいかで勝るべき。身より出だせる咎なれば。心の鬼の身を責めて。かように苦をば受くるなり。月の夕べの浮き雲は。後の世の迷い.なるべし。

〔キリ〕

五体さながら苦しみて。白髪は乱れ逆髪の。雪を乱せるごとくにて。天に叫び。地に倒れて。神風のひと揉み揉んで。かみかぜのひと揉み揉んで。時しも卯の花くだしの。さみだれも降るやとばかり。面には。白汗を流して。袂には露の繁玉。時ならぬ霰玉散る。あしぶみはとうとうど。手の舞い笏拍子。打つ音は窓の雨の。 震いわななき立っつ居つ。肝胆を砕く神の怠り。申し上ぐると見えつるが。神は上がらせ給いぬとて。ぼうぼうと狂い覚めて。いざやわが子ようち連れて。またも帰りなば二見の浦。またも帰らば二見の。浦千鳥友呼びて。伊勢の国へぞ帰りける。

 

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